No.03 不思議体験

岩谷 一
(いわや はじめ)
所属:専務取締役
   制作部長

 憑依現象・・・!?

テレビの仕事を始めて25年ほどになる。その間、何度か不思議な体験をしている。まるで“天から何かが舞い降りた”と思えるような、自分でも信じられない能力を発揮したと感じることが、何度かあった。

その体験のひとつは、もう5年くらい前の出来事だ。妖艶な姥桜の伝説を紹介するナレーションを書いているときだった。

映像素材を見ているうちに老木の妖気に誘われたのか、編集室にいるにもかかわらず、風の音が聞こえてきて、周りが薄暗くなり、花弁が舞い始める・・・、(そんなことあるわけないが、)まるで自分が姥桜の下に立っているかのような気分になった。そして、普段は使わないような言葉が次々と湧き出てきたのだ。気付いたときには、いつの間にかナレーションを書き終えていた。

きっと、その当時、いくつかの番組を掛け持ちしていたためか、睡眠不足の上、緊張感があり、大量の神経伝達物質が分泌されていたのだと思う。

集中力も高まり、それまで記憶の奥深くに閉じ込められていた言葉が飛び出してきたのかもしれない。それは、かつて読んだ本のどこかに記されていた言葉や文章なのだろう。

しかし、自分の脳の中では、妖艶な桜と相対峙していたのは確かだった。今も薄墨の花弁を満開に咲かせた桜を見ると身震いがする。(ただ、後に番組を見るとそれほど大したナレーションでもなく、自己陶酔だったのが残念・・・。)

さて、この不思議な現象は、それ以後、起きていない。ディレクターからプロデューサーに職替えをしてしまったからだろうか。

ただ、たとえ自己陶酔でも、あれほどの集中力をいつでも引き出せるようになれれば、仕事がもっと楽しくなるに違いない。

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