No.25 「テレビで私のことを見た人が・・・ 」

高橋 萌香
(たかはし もえか)
所属:制作部

就職活動をしている頃に、voiceのこのページを見た。

この会社で働く人の顔が見られたような嬉しさと、
一人ひとりの言葉に惹かれて、
エントリーシートを送ることを決めたものだ。
懐かしい。

入社して、3年目に入ろうという今。
「石の上にも3年」ということわざがあるが、
この仕事を理解するのには、正直3年なんてものでは足りないと思う。

1人の人物を丁寧に取材するヒューマンドキュメンタリーが
最もイメージしやすいけれど、それだけではないことを知った。

写真や美術品を取り巻く物語を追う番組、
広大な自然をテーマにした番組、
歴史上の出来事の舞台裏を解き明かす番組…

数えきれないくらいのテーマがあって、
その先にまた更に、数えきれないほどの「演出」がある。
ありすぎて全然わかんない、正直。

でもわからないから好きだ。

わたしはその懐の深いドキュメンタリーという表現手法に、
今日までずっと魅せられている。

テレビ業界の企業を受けたのはオルタスジャパンだけ。
テレビ業界で働きたいというよりは、
ドキュメンタリーに携わりたいという動機が強かったからだ。

きっかけは、学生時代に偶然見たドキュメンタリー番組。

バラエティによくある、アメリカの駄菓子みたいにカラフルなテロップに疲れて
チャンネルを回すと、偶然流れていた終戦ドキュメンタリーの遺族の証言が
ぎゅっとわたしの心をつかんだのだ。

それ以外にも何度か、関西弁で部落差別の経験をまくしたてるお姉さんとか、
津波で家が流されても海辺の漁村で暮らし続ける若い漁師とか、
いろんな人が、ぎゅ、ぎゅ、とわたしの心をつかんでいった。
市井の人々の、切れば血が出るような生きた言葉。

机上の「お勉強」だけで分かったつもりになっている、
わたしのことを、清く正しくぶん殴ってほしくて、夢中で見た。

…それが今、
テレビ画面を介さずに、直接ぶん殴られに行く仕事に就くとは。

ある番組で、肺を癌に侵された男性を取材した。
人生で最期になるかもしれない夫婦旅行の撮影だった。
その男性は末期の状態で、酸素ボンベが必須。

1分も続けてしゃべれば息を切らしてしまうほどで、
体調はいいとは言えなかった。

…いや、ほんとに大丈夫かな、
こんな具合が悪いのにカメラ向けてしまってていいのかな。
弱っていく自分の姿、撮影されて嫌じゃないかな。
そんな遠慮が、取材態度にも出ていたのかもしれない。

彼はわたしを一発、ぶん殴ってくれた。

「テレビで私のことを見た人が元気になってくれたらいいよね。
こんなになっても、旅行に行けるんだってね、思ってくれたら、いいよね。」

カメラを向けられる相手も、
伝える覚悟をもってそこに立っていることを肌で感じた瞬間だった。

些細な自分の悩みに恥じ入ると同時に、
彼の覚悟に報いる番組にしなければならないと、背筋が伸びた。

「テレビで私のことを見た人が・・・」

そのまっすぐな目と言葉が、船の錨のようにまっすぐ、
わたしの胸に落ちて、今もずっしり、動かない。

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